爪痕 [近所話]
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
今回はちょっと短い話です。
その当時住んでいた県境の道路のカーブの道端に、いつも決まった定位置に挨拶おじさんが立っていました。
車で通り過ぎた人に挨拶をしていました。
いつから挨拶を始めたのかは定かではありませんが、雨の日も風の日も暑い日も雪の日も立って挨拶をしていたと思われます。
いつ見ても、おじさんの顔は日に焼けていました。
車で運転して通り過ぎる人の目をジッと見て首を少し下げる挨拶の仕方でした。
いつもやっているので極めたのでしょう。挨拶のプロで無駄な動きがありませんでした。
最初、頭のおかしい人がいるなと思っていましたが・・・(挨拶されてもフリーズしていた。)
たまにしか通らない道なので、さほど気にしてはいませんでした。
ある時その道を車で通り、いつものごとく挨拶おじさんに挨拶をされたので迂闊にもつい癖で挨拶をしてしまいました。
するとおじさんは、何とも言えない満面の笑みを浮かべて満足そうに仕事をやり切ったとでも言いたそうな、とても良いドヤ顔をしていました。
私はその日からその道を通ったら毎回必ずおじさんに挨拶するようになりました。
ある時、友達の運転する車でその道を通った時当たり前の様に私が挨拶していると友達に「挨拶しているの?」
と言われました。
私は「初めは私もそう思ったけどおじさん自体害はないし、挨拶すると凄く喜ぶし、みんなここら辺の大概の人はお約束みたいな感じで挨拶しているよ!」
暫くしてから。
友達から「うちの旦那も挨拶おじさんと挨拶していたんだよ(笑)私も今は挨拶してるよ!あそこじゃ結構有名な人なんだって?」と電話がありました。
月日は流れ。
いつの頃からか分かりませんが、挨拶おじさんがあの場所から突然、居なくなってしまいました。
憶測でしかありませんが、挨拶おじさんは道端に立てないほど病気になってしまったのか、もしくは亡くなられてしまったのか・・・
未だに私は、あの道を通る度にあそこのカーブのおじさんが立っていた場所に目が行ってしまう。
彼は私の中に結構な爪痕を残した人だと思いました。
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